【大田区のハナシ #5】「蛍のハナシ」

かつて幼いころに、秋田の片田舎で過ごした時期があります。
良質な水源があったので、近所には湧水や井戸が解放されていたし、何より酒蔵に活気があった記憶があります。
時期になると、家の裏に広がる田んぼが一面、蛍光の小さな明滅に包まれていました。
枕もとでそのさまを観察できるほど、たくさんの蛍がいました。

水がきれいなところでないと繁殖は難しいとされている蛍ですが、大田区で鑑賞が叶う場所があります。
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東京都大田区、環状7号線と池上通りが交わる春日橋交差点からほど近いお寺、「善慶寺」。
大森にゆかりのある由緒正しいお寺です。
ここには重税にあえぎ、直訴して処刑された「新居宿義民六人衆」の墓所があり、大森村の歴史をひも解くうえでも重要なお寺です。

こちらのお寺では、毎年時期が来ると、お寺に併設された可愛らしい沢で、蛍を鑑賞することができます。
住職が水源を整備し、蛍に適した環境を整え、丹念にお世話をしています。
善慶寺ウェブサイトを見ると、平成23年より一般公開を行っているとあり、好意で鑑賞させていただいていたのも、そんなに以前のことかと感慨もひとしおです。

こちらは特に宣伝などもせず、知る人ぞ知るイベントでしたが、テレビに取り上げられたことで来場者が急激に増加し、以前ほど大らかな鑑賞会ではなくなりました。
蛍の公開日が、5月3週日曜から1週間、20:00から22:00とあり、自分がお邪魔していた時より厳密になっています。

気さくな住職で、いろいろなお話をお聞きすることができ、楽しい時間を過ごせます。
人もまばらな薄暗い敷地内で、幽玄に舞う蛍の明滅を眺めながら。
得も言われぬ清浄な空気を感じることができます。

今年はもう終了したようですが、来年にでも是非ご鑑賞してみてはいかがでしょうか。
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「日蓮宗 方光山 善慶寺」
住所:東京都大田区山王3-22-16
アクセス:JR大森駅より徒歩10分
JR大森駅を池上通り方面に降りて、環七方面に直進し、大森郵便局を右折、なだらかな阪を登っていくと正面に見えてきます。

紹介

ーー東京都大田区。 大田区で育ち、大田区に魅入られた者が、文筆活動をつうじて大田区の魅力を勝手にお伝えいたします。